Addicted to you
 しばらく、貴志さんと色々な事を話した。

 司さんがお父さんみたいな感じなら、貴志さんはお兄さんのような感じ・・・。

 私はたくさんの事を知らなかったのだと認識した。
 そして、私が愛を信じていない事も・・・・・・。

「愛を信じていない?」
「そう、信じていない。信じていないから相手からの愛を望まない。貴女は自分の気持ちを信じてもらえない相手からの好意が、どれだけ残酷なものか知らないからこそ、そこまで残酷にもなれる」
「そんな」

 海さんは一方的な私の気持ちが辛かったの?

「愛とはお互いが与え合う心の事。一方的な愛などないんですよ。言うならばそれは『慈しむ』と言う事・・・。例えば子供はどんな親でも愛するし、親もどんな子供でも愛する。そんなふうに、お互いを愛するから愛が成り立つんです」

 私には貴志さんの言っている事は判っても、意味までは理解出来なかった。

「・・・よく・・・わかりません」

 素直に首を振る果穂の頬に貴志の大きな手が触れる。

「まず、自分のことを見ていてくれる相手を信じることからはじめなさい。貴女に無償の愛を捧げている人がいるのだから、そんな人なら信じてもいいでしょう?」

 優しい瞳で見つめられ、素直に聞きたい言葉が出てきた。

「それは・・・誰ですか?」
「例えば私の祖父とか・・・今一番貴女に近いところで、私とか・・・」
「え?」

 言われた事に驚いてしまって、それ以上の言葉が出てこない私の手に、貴志さんの手が置かれた。

「さて、いいかげん戻らないと、祖父が探しにきてしまう。会場に戻りましょう」

 からかわれているのだろうか?
 それとも誤魔化されているのだろうか?

 あっさりと話を切り替えられ、私は困惑したまま手を引かれ立ち上がった。

「少なくとも、祖父も私も貴女の事は傷つけないと信じて下さい」
「貴志さん・・・」

 真剣な眼差しで見つめられ、私は何を言えばいいのか判らず、ただ、頷いて気持ちを伝える事が精一杯だった。

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