Addicted to you
「あら、瀬戸内、こんな所までどうしたの?」
「申し訳ございません、社長。どうしてもお話したい事がございまして、ちょっとよろしいでしょうか?」
「わかったわ。すみません、少し席をはずさせていただきますわね」
「ええ、よろしいですよ」

 2人の足音が少し遠ざかって、つまっていた呼吸が出来るようになったけれど、震えは止らなかった。

 そんな私に司さんと貴志さんが気づいてしまった。
 心配そうに貴志さんが顔を覗いてくる。

「どうしました?」
「なん・・・でも、ないんです・・・」

 そう言って首を振ったのだけど、貴志さんは追及を緩めてはくれなかった。

「何でもない顔ではないでしょう? さっき信じて話して欲しいと言ったばかりのはずですが?」
「貴志、あまり相沢さんに無理を言うな」

 司さんのやさしい言葉に、さっき信じようと思った私が、もう、自分の殻に逃げようとしている事に気付いて、私は思い切って顔を上げた。

「あの・・・、今の秘書さん・・・、私の・・・」

 でも、なんて説明すればいいのか判らなくって、言葉が続かない。

 途方にくれて困っていると、察しのいい貴志さんがシンディさんと海さんのいる場所から私を隠すように立ってくれた。

「彼がさっき話した相手なんですね?」

 そう言われ、私は素直に頷いてみせた。

「貴志、何の話をしている?」
「後でお話しますよ」
「顔色が悪い、しばらく上の部屋で休むといい」

 そう言うと肩に手を回され、押し出されるような形で会場の階段を上がった。

 一目海さんを見たい気持ちを押さえつけ、私は大人しく貴志さんに導かれるまま会場を後にした・・・・・。

 貴志さんに連れられ、ある部屋の天蓋付きの大きなベットに座るように促された。
 私が素直に座ると、その横に貴志さんが座って労わるような表情で顔を覗き込んでくる。

「支店長さんには私の方からちゃんと説明しておくから、ゆっくり休むといい。少し睡眠をとれば気分も良くなる」
「すみません・・・・」

 気を使ってくれる貴志さんに申し訳なさそうにすると、貴志さんは何でもないことだというように笑って、私の頭を撫でた。

 頭を撫でられる度に私の胸が痛む。

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