Addicted to you
「え? つたやさんに泊まっているんですか?」
「ああ、そうだ。社長のお気に入りの旅館でね」
「私もなんですよ。友達のご両親が経営しているからってゆっくりしないかと誘ってくれて」
「ほう」

 私は格安に泊まらせてもらっていたこともあるけど、部屋は新館の2階に泊まっている。
 瀬戸内さんは宿泊費の高い本館の端にある離れに泊まっているらしい。
 そこはホテルで言うスウィートみたいなところだ。

 掃除の手伝いで、その隣の部屋に行ったことがあるけれど、すごく豪華で広々としている。
 部屋はいくつもあって、もちろん個室だ。

 そこに瀬戸内さんは社長と、社長の姪っ子さんと、もう1人の秘書さんと4人で泊まっているらしい。

「俺の仕事も後は雑務を残すだけで、今は半分休暇だ。社長も姪の女の子と休暇がてら遊んでいるよ」
「いつ帰られるんですか?」
「3日後だ。君は?」
「私も3日後です。1週間の宿泊ですから」
「そうか」

 コーヒーの香りの向こうで、落ち着いた大人の表情を浮かべる瀬戸内さん。

 そんな瀬戸内さんのことを知りたくて、どんな些細な情報でも、瀬戸内さんを知る事に繋がることだったら良かった。

 もう、この時にはもう完全に自分が瀬戸内さんを好きだと思う気持ちに気付いていた。
 誰にも感じたことがないような甘くて、痺れるような気分。

 今まで生きるのに精一杯だった私に突然落ちてきた恋。

 自分よりずっと年上の社会人の彼と、大学生の私。
 若くて、不器用な私は、ただ彼だけをがむしゃらに求めた。
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