Addicted to you
「瀬戸内さん、こんにちは」
「おや、君は・・・・」

 出会って次の日、旅館のロビーで偶然会ったふりをしたけれど、本当は待ち伏せっだったりする。
 だって、それしか会う方法が思い浮かばなくて。

 昨日よりもカチッとしたスーツを着て、脇には封筒を挟んでいる瀬戸内さんの姿に目がいく。
 どう見ても遊びに行くような感じではない。
 きっとこれから仕事なのだろう。

 がっかりした気持ちで、一応聞いてみた。

「お仕事ですか?」
「ああ、この書類を届にいくだけだがね」
「その後は?」
「今日はそれだけだが・・・・」
「じゃあ、それが終わったら一緒にどこか行きませんか? 1人じゃさすがに施設を利用しにくくて、一緒に行っていただけるとありがたいんですけど」

 断わられることを覚悟の上での誘いだったけれど、瀬戸内さんは少し考えた後、笑って承諾をしてくれた。

「書類を渡している間、外で待っていられるならいいだろう。だが、この服装なのを忘れないでくれればお付き合いするよ」
「本当ですか? じゃあ、ちゃんと大人しく待ってますね!」

 喜びがこみ上げる。
 一緒にいられるなら、1時間や2時間は大人しく待ってられる気分だ。

 出かける瀬戸内さんの後に続き、一緒に駐車場に向かう。
 駐車場にあったのは白のセルシオ。

 いかにも国産の高級車だ。

「車で来ていたんですか?」
「いや、こっちでレンタカーを借りた。車がないと不便な場所だが、ここまで車で来るには少し遠すぎるからね」
「東京・・・・でしたよね? 確かにこの島へ車で来るくらいなら借りた方が便利かも・・・・」
「さ、乗って」
「はい」

 乗ったことなんてない高級車。
 車を運転する瀬戸内さんはとても素敵で、私は会話中もドキドキする鼓動を押さえることが出来なかった。
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