好きだからBLの恋
 風人の怒鳴り声に優子は首をすくませる。
 いくら庭を頼んだと言っても、そのことはどんなに時間をかけてもかまわないって話になっているはずで、家に泊まるほど切羽詰まっているわけでもなければ、たとえ多少帰宅が遅くなったとして、優子の家がもそれほど遠いわけでもない。
 泊まる必要など何処にもないはずだった。

「じゃあ、風人がママさんに断わってよ~。私だと何を言っても何だかんだと結局丸めこまれちゃうんだもの」
「うっ・・・オフクロが?」
「うん」
「そ、そっか、悪ぃ・・・」

 意外と口達者で策略家な母親に風人はいつも言い負かされていたので、さすがに気まずい気分になってしまう。
 優子は、きっと何とか断わろうと努力したはずだ。
 しかし、そんな努力も風人の母親の前では軽くいなされたことが容易に想像出来る。

「大丈夫、一応、俺も一緒だぜ」
「は? 奏多も?」
「ああ、俺がいれば優子も男に見えるだろ? 人間って思い込むと物事が正しく見られなくなる生き物だから、優子が男だって思い込むまで俺が一緒にいないとこの作戦は成功しないってワケ」

 いったいいつそんな作戦になったのかと、一瞬考えたが、実際、2人が髪を切ってから一緒にいると間違えられることが多くなったのも事実だ。
 まったく性別の違う成人した人間を間違えるなんてありえないことだが、もともと2人は兄弟で似ている。
 奏多はいつまで経っても男くさくならず、優子の方も体の凹凸も乏しく、まったく女らしい感じがしない。
 どこか中性的な独特の雰囲気が2人はあった。

「まあ、出来るだけ俺の部屋にいるとかして、兄貴と接触しないようにすれば大丈夫か・・・」
「あんまり心配すんなよ。なるようになるって! それに万が一バレたとしても、お前のオカンが何とかしてくれるさ」
「・・・できればバレないままでいて欲しいんだが?」
「努力はするさ。な、優子?」
「う、うん」

 奏多のあてにならないような言葉でも、優子の方は生真面目だ。
 約束は守るだろう。
 自分の髪さえ躊躇いもなく切ってくれるほど、優子は情に厚い。

 とても優しくて繊細で、懐が広い。
 風人が一目置いている数少ない女性の1人だ。

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