好きだからBLの恋
「そんなの気にすんなよ風人。髪を切ったのだって、優子のこだわり性格のせいで切るって言い出したことだしな」

 雑誌に夢中になっていたとばかり思っていた奏多の言葉に、不満げに優子の眉が寄せられる。

「やるからにはトコトン! だもん」
「あ~そうですね。優子のトコトンは常識的には考えられないところまで及ぶ完璧主義ですからね」
「いけないの?」
「別に、ない胸を隠す為に、さらしまで撒いて大変だなぁ~と思・・・痛てぇ!」

 奏多の言葉が、優子に頭を叩かれたことによって止まる。
 多少手加減はしてあるようだったが、気持ちがいいほど大きな音をさせて叩いた優子に風人は唖然としてしまった。

 普段から余計なことばかり言う奏多と優子ではケンカが絶えない方だったが、あくまでも口げんかで、どちらも手を出すことは無い。
 それに優子はおっとりとして控えめな性格だと思っていたのだ。
 その優子が奏多をぶったことに、風人はすごく驚いていた。

「ぶつなよ!」
「なくない! 最近少し成長してきてる!」
「バッカじゃねぇ、今頃成長しているなんてことあるはずねぇだろ? 気のせいだ。こののっぺらまな板!」
「のっぺ・・・。自分だってヒゲすら生えてこない万年思春期のくせに!」
「なんだと?」

 もはや子供同士のケンカまで次元が落ちている2人を止めるべきか風人は一瞬悩む。
 そんな時、階段を上がってくる足音に気づいた。

「お、おい、誰か来る!」

 その一言に2人のケンカがぴたりと止まる。
 風人は窓から外の車庫に視線を投げると、そこに、見慣れた車が止まっていた。

「兄貴、帰ってる・・・」
「じゃあ」

 そう思って3人がドアに視線を向けると、すぐにノックする音が聞こえた。

「風人」

 低く心地よいテノールの声。
 間違いなく久音の声だった。

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