最カノ・アスカ様。
「それよりキミも、自転車を漕ぐときは十分注意しなくちゃだよ」


医者のごもっともな注意にいち早く反応したのは、それまで黙っていた女だった。


「先生ウチが悪いんですッフランスパン食べながらメールしてたから……」


──ちょっと。

もしかして、もしかしなくても。

……庇ってんの?

おれのこと……。


右側へ視線を移した。

が、やっぱり彼女の姿は見えない。


……なんだ?


胸の奥が、痛い。


「あぁ、確かにお嬢さんも注意力が足りなかったね」

「や!おれが悪いんッス……!すいません、次から気をつけます!」


小さな病室に、おれの声が響き渡った。


つい声が大きくなってしまった。


頭に浮かぶ、三文字の単語。


感覚が麻痺して、あまり感じなくなった感情。


──罪悪感。


胸の痛みの正体は、たぶんこれだ。


「あぁ」


医者は眼鏡の奥にある瞳を細くしながら優しく微笑むと、言葉を続けた。


「えぇっと……そうだ、勝手ながらキミの荷物を物色させてもらったからね。えっと、名前は……」
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