最カノ・アスカ様。
ダチの一人のドアップが視界一杯に映し出され、周りが一気に騒がしくなる。


他の奴らは、まだライオンの群れ状態。


「なんだよボーッとして。変な顔だったぞぉ?ウヒャヒャ!」

「……うるせーよ。てか、口の周りを拭け」


口の周りに茶色い髭を生やしたダチからは、チョコレートの甘ったるい香りがプンプン漂っていた。


「なぁ、それもくれよ!」

「あ?…………これはダメ」


髭野郎が指差したのは、アヤから貰ったカップケーキ。


これは、やらねぇ。


シッシッと髭野郎を追い払い、そっと、生き物を扱うように優しく、ピンクの包みをポケットに戻した。


──その時。


けたたましく震え出した、ズボンの左ポケット。


【受信:アスカ】


……コイツかよ。

今日はもう登場しねぇと思ってたぞ……。


チョコレート並に甘いな、おれも。


【学校お疲れ様ァ今日は、帰れなくてゴメンね寂しかったでしょォ】


……イラッ。


ミシミシッとケータイが軋んだ。


「『寂しかったでしょ?』だぁ……?」


落ち着け。

落ち着くんだおれ。


とりあえず、深呼吸をしよう。


すぅ〜はぁ〜……。


「……よし。大丈夫。まだ堪え(たえ)られる……」


沸き上がる怒気をなんとか鎮め、メールの続きに目を通す。
< 53 / 119 >

この作品をシェア

pagetop