(短編集)クレイジー
『つぎはぎ世界の矛盾』
生は冷たいものだ。
死にゆくものを引き止めもしない。
無情なもの。
しかし、それと対になるものはどうだ。
死は温かい。
生から離れたものを包み込み、受け入れる。
大きく優しい眠りの時。
「そうだと思わないか?」
白く清潔感のある小部屋。
そこに通された私は、ただ目の前に立つ男性をぼうっと見ていた。
私よりも幾分か年上だろうその人は、白衣を身に纏い、どこか温かな雰囲気を持っていて。
私を安心させるためだろうか。
終始笑顔を絶やさずに話を続ける。
「キミは選ばれたんだよ」
素晴らしい、そう言って白衣の男は手を鳴らした。
ぱちぱちと静かな音は小さな部屋に響き、やがて消えて。
"選ばれた"
それだけなら、いい気分だったかもしれない。
しかし、いい気分になんてなれるはずがなかった。
そう、私は選ばれたのだ。
「キミには永遠の眠りにつく権利が与えられた」
ぽん、と肩に置かれた手から薄い布を通して生暖かい人肌を感じた。
「人類の平和のために、キミが出来ることはただひとつ」
目の前の彼は笑顔で私に宣告する。
どうして私が――
「人柱となり平和をもたらせ」
選択権などありはしない。
犠牲の上に立つ平和など、つぎはぎでしかありはしないのに。
目の前の楽に縋って遠い未来を考えはしない。
死を安らかな眠りと言うのに、なんて矛盾。
(そんな人間の末路を哀れに思う)
end