Time Lag
「あれ、彼女もう帰っちゃった?」
いつの間にか愛美が僕の後ろに立っていた。
息が上がっていることから全速力で走ってきたのだろう。
どうやら彼女を紹介してもらおうと思っていたらしい。
「彼女なんかじゃないよ。ただの友達」
ふてくされた顔で見上げる愛美に僕はそう答えた。
そう。ただの友達。
結局、気持ちを伝えることができなかった自分の不甲斐なさに僕はため息を吐いた。
それに彼女が帰る間際、どこかよそよそしく感じたのは僕の気のせいだろうか。
まさか僕の気持ちを悟って逃げてしまったとか。
僕は一気に不安に駆られる。
やっぱり彼女との関係が壊れてしまうことが一番怖い。
彼女のそばにいることができるのなら、このまま友達として自分の気持ちを封印してしまえばいいのだろうか。
例え苦しくても、彼女が僕から離れていくことを考えたらずっと――。
「もしかして彼女は耳が聞こえないの?」
突然、愛美が僕に訊いた。