Time Lag
「彼女の気持ちが知りたいならそのメモ帳をもう一回読み返してみるといいよ。きっと分かるから」
僕はひたすら自転車を漕いで大学に向かった。
とめどなく流れる汗を拭いながら無我夢中になって彼女の姿を探した。
この時間ならまだ食堂にいるはずだ。
しかし食堂に彼女の姿はなかった。
ちくたく。
ちくたく。
刻々と過ぎていく時間が僕を急かせる。
早く彼女に会って伝えたいのに。
一分一秒も早く、今の想いを。
その時だった。
神様が味方してくれたのか窓の外で彼女が野良猫とじゃれあっている姿を見つけた。
「千秋」
聞こえるはずもないのに、僕は二階の窓からとっさに彼女の名前を呼んでいた。
もちろん彼女は僕の声に気付いていない。
それでも僕は何度も呼びかけた。
すると気配を感じ取ったのか、振り向いた彼女がやっと僕に気付いてくれた。
僕が手を振ると、彼女も返してくれた。
しかしその顔はどこか浮かない様子で僕は心配になった。
「どうしたの?」
僕は彼女に分かるようにできるだけ口を大きく開けてゆっくりと動かした。
「なんでもない」
彼女は首を横に振って、微笑を浮かべた。
なんでもないはずがなかった。
その笑顔はどこかぎこちがなくやっぱり昨日と一緒でよそよそしく感じたから。