Time Lag


「僕じゃ頼りない?」


また彼女は首を振った。


「本当に大丈夫だから」

「僕が何かしたなら謝るよ」

「違うよ。あなたのせいじゃない」

「じゃあなんで元気がないの?」


彼女は少しうつむいて、間を置いてから呟くように言った。


「こういうとき耳が聞こえたらいいのにね」


えっ、と僕は目を疑った。


「ごめんね。千秋なんかと一緒にいると面倒臭いでしょ。千秋は耳が悪いから」


驚いた。

メモ帳のあの言葉を見つけるまで彼女がそんな事を考えていたなんて思いもよらなかった。


――もし千秋が聞こえてたらあなたは千秋のことを好きになってくれた?


障害があっても彼女はいつだってそれを感じさせないほど明るくて前向きな人なのに。


「何言ってるんだよ。面倒臭いなんて僕は一度も思ったことないよ。むしろ君と一緒にいるだけですごく楽しくて幸せだった」


彼女はただ笑うばかりで僕の話を聞こうとしなかった。

というより彼女はわざと僕の口を読み取ろうとしなかった。


「千秋」


何度呼びかけても彼女は目を伏せたまま。


「千秋」



もどかしい。
もどかしい。


僕と彼女の時間差。

いつまでたっても縮むことはないのだろうか。


「千秋。僕は君のことが好きなんだ」


こんな時、手話ができたらいいのに。


手話────。
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