恋愛テスト
簡単なテスト
「試してみても、いいかな?」
そう言ったのは、うちのクラスで一番可愛い有里だった。
クラスで一番、っていう程度だから、勿論グラビアアイドルなんかと比べたらずっと普通の、地味な顔だちだ。
でも、学校なんて狭い世界に暮らしてる俺たちにとってみれば、有里ってのは軽くあこがれるくらいには可愛い、貴重な存在なのだ。
そんな有里がいきなりそんなことを言ったのは、ツクツクホーシがやかましく鳴く、残暑厳しい秋口のことだった。
「試すって……何を?」
恐る恐る俺が言ったのも無理はないはずだ。
場所は教室。
時間は放課後。
舞台装置はばっちり揃っている。
普通なら、ここはどーんと告白イベント、ってなもんだろう。
しかし、俺はそんなもん、期待してなかった。
何せ、俺はクラスで一番なんてものはいい意味でも悪い意味でも縁がない、きわめて平凡な奴だ。
そんな俺に、有里が告白なんてするわけないのだ。
だから、かえって俺は気軽に呼び出しに応じたのだが、有里ってのは俺の予想なんかを遥かに飛び越えるような奴だった。
「試してみたいんだ。
……キスってどんな味がするのか」
「なんだそりゃ。
何かの罰ゲームか?」
違うよ、と有里は笑った。
その笑い方も、月並みだが、花のように軽やかで明るい。