恋愛テスト
「ちょっと、興味があるんだ。
君なら、変に言触らしたりもしないだろうし、乱暴なこともしなさそうだから、安全かなって」
…なるほど。
ついでに、俺を安全と見なす根拠を聞かせてもらえるだろうか?
「そりゃ勿論、」
と有里は笑った。
思い出し笑いだ。
さっきの笑い方よりもいくらか意地が悪い。
「君くらいのもんじゃないの?
やっと告白して出来た彼女に、キスまでしかしなかったって理由で振られるなんて」
「探せば他にいるかも知れんぞ」
「いたとしても、君くらい評判になってるのはいないね」
くすくすと笑った有里に、俺は言う。
「やっぱり、罰ゲームなんだろ?
そうじゃなかったらドッキリだ。
俺をからかって遊ぼうって魂胆だな」
「違うよ。
疑り深いなぁ…」
そう言った有里が俺に近づく。
まさか本気じゃないだろうと高をくくっていた俺は、後でそれを猛烈に後悔させられた。
有里は真っ直ぐ俺に近づいてくると、俺が逃げ出さないのを見て笑った。
唇が三日月みたいなラインを描く。
「待て、有里!
お前、本気で……」
「冗談と思ったのは君だよ」
あまり背は高くない有里は、俺の肩に手を置き、ぐっと背伸びをした。
唇に触れる、柔らかな感触。
俺の思考は停止した。
すとん、とかかとを床に着ける音がした。
それでやっと意識を現実に呼び戻した俺に、有里はにっこりと微笑みかけてきた。
なんて奴だ。
「もしかして、お昼はカレーだった?
かすかにだけど、カレーの匂いがしたよ。
スパイシーなファーストキスってのもいいね」
というのが有里の感想であり、その後有里はまるで何もなかったかのように、
「ありがと。
おかげで貴重な体験が出来たよ。
また明日」
と言い残して去ってしまった。
俺はというと、しばらく呆然とした後、頭を抱えて床にしゃがみこみ、そのままの姿勢で下校を促すチャイムを聞いた。
懸案事項はひとつきり。
どうやって、キスと共に持ってかれちまった心臓を返してもらうか。
それだけが問題だ。