恋愛テスト
「私が嫌って言ったらどうする?」
「…なら、諦める」
「分かんないなぁ、君は。
キスしたからって付き合いたくなるものなの?
好きだから付き合うってもんじゃないの?」
もっともな疑問を口にした有里に、俺は正直に答えた。
そりゃあもう正直にな。
「俺も普通の男子高校生なんだってことで、説明にならないか?」
「うん?」
「チャンスは逃したくないってことだ」
「チャンス…ねぇ?」
怪しむようにそう口にした有里は、容赦のかけらもなく、
「本当に、チャンスだなんて思える?」
と聞いてくる。
「チャンスだろ。
有里は可愛いし、話してても楽しいからな。
これをきっかけにお付き合いなんか出来たら嬉しい」
俺だって、それくらいのことは思うんだよ。
「本当かなぁ…?」
まだ怪しんでいるらしい有里は、
「大体、何度くらい話したっけ?
そんなに親しくした覚えもないよね?」
「確かに、数回しかろくに会話した記憶はないな。
けど、それで印象に残ってるんだから、いいんじゃないのか?」
「うまいこと言うねぇ」
有里は感心したように呟いてから、クスリと笑った。
「…君ん家、何かお商売でもしてるの?」
「いや?
うちはしがないサラリーマンだが…」
どうかしたのか?
「いや、商売人は転んでもタダじゃ起きない、ってやつかと思っただけ」
「…何が言いたい」
「ふふ、なんだろうね」
そう言ってはぐらかした有里は、
「まあ、思ってたより打算的で安心したよ。
仏様みたいなやつじゃつまらないからね」
と分かるような分からないような感想を漏らした後、嫣然と微笑んだ。
それこそ、どきりとさせられるような笑みだ。
「君がそこまで言うなら、お付き合いしてみようじゃないか。
言っておくけど、私は昨日のあれがファーストキスなんだ。
当然、お付き合いの経験もないからね。
きちんとリードしてくれよ?」
と高貴な(あるいは高慢な)姫君よろしく、手を差し伸べてきたのだった。