恋人未満
…って、睨みつけようと思ったんだけど、つい、目から力が抜けた。
新がいけない。
こいつが、凄く幸せそうな顔して食べてるから。
玉子焼きを箸でちょっと切って、一口ずつ惜しむように口に運んで、大事そうによく噛んで食べる。
昨日の残りだって分かってるはずのおひたしにも、その姿勢は変わらない。
本当に美味しいって思ってくれてるんだと分かる顔で食べてくれる。
これで、こぼしたりしなきゃいいのに。
「…っ、もう、こぼすな!
小さい子じゃないんだから!」
怒りながら新がこぼしたおひたしを拾い上げてやったら、そいつはぱかっと口を開けた。
…食べさせろってか。
あたしはため息をひとつ吐いて、それを口に放り込んでやる。
そうするとまた、嬉しそうに笑うんだ。
こいつのこういう態度は本当にずるいわ。
あたしは笑っていいんだか、それとも怒りを持続させるべきなんだか分からないような気持ちになりながら新を見つめた。
不思議そうな顔をした新があたしを見つめ返してくるまでの間、じっと。
「…なんでもない」
そう言ってあたしも食事に戻った。