恋人未満
だらだらとした午後の授業が終っても、ばかは帰ってこなかった。
考えてみたら、3時間目が終った時にはもういなかった気がする。
……あの、ばか。
一体何のためにわざわざ引き摺ってきたと思ってるんだろう。
苛立ちながらあたしは校内を歩きまわってばかを探す。
眉間にしわが寄ったままになって、元に戻らなくなったらあいつに責任をとってもらおうと思いながら。
足音も荒く歩きまわるあたしに、通りすがりの連中が、
「新なら中庭の方にいたぞー」
「飼い主も大変だな」
なんて声を掛けていった。
情報はありがたい。
でも、飼い主なんて言葉は余計だ。
……妙に、しっくりくるけど。
あたしが飼い主なら、あいつはなんだろう。
犬なら駄犬で決定だけど、あんなだらけた犬なんて認めたくない。
猫くらい自由だけど俊敏じゃない。
鳥ほど軽やかでもない。
言葉のイメージで言っていいなら、穴熊か何かだと思う。
実際、穴熊がどんな動物なのかよく分かんないけど。
で、結局穴熊、じゃなくて、新は、中庭の芝生の上でごろごろと寝そべっていた。
芝生ってチクチクして痛いから昼寝には向かないと思うんだけど、新はこれが気に入っているらしい。
あたしは教室から持ってきた新の荷物を、まだすよすよ眠ってるやつの頭に落下させた。
一瞬の間があって、もぞりと新が起き上がる。
「帰るよ」
返事は言葉ですらなく、ただこっくりと頷いただけだった。
……鈍臭い。