恋人未満
あたしが先に立って、家に向かって歩きだす。
気を抜けないのは、時々、新を置いていってしまう時があるからだ。
こいつときたら、立って歩きながらでも寝ようとしたりするんだから。
だから、あたしは少しでも新の気を引いて、速やかに帰れるようにと話しかける。
「あたし、介護ヘルパーなんかになってもやってけると思わない?」
新は首をかしげ、あたしに意味を問う。
「だってあたし、もうずっとあんたの世話を焼いてるのよ?
あんたの世話なんてほとんど介護みたいなもんじゃない。
それに、あんたに比べたら、寝たきりのおじいちゃんおばあちゃんの世話する方が、絶対いいに決まってるもん」
「だめだ」
意外にもはっきり言われ、あたしは驚いた。
「だめって…」
「貴音は、俺専属」
「……あっそ」
そこで一言、「好きだ」とでも言えばいいのに、こいつは言わない。
言いたくないのか、それともそんなことも考え付かないのか、それすら分からない。
「好きだ」って、言ってくれたらいいのに。
そうしたら、この先一生だって面倒看て………
やりたくないわ。
こんな社会生活不適応者。