風になったアナタへ
リンの父・母・兄二人はスポケーンに集まり家族で話し合い、リンの生前の意志を尊重する事に合意した。それはつまり、生命維持装置を外す決断をし、提供可能な臓器の全てを提供する決定をしたということだ。

「笑いもしない、泣きもしない、怒りもしない、無表情なリンを見て思ったわ。リンの肉体は存在しているけど、リンの魂はもうこの肉体には宿っていないってね」

写真を整理したあの晩、パトリシアが穏やかな口調で私にそう話してくれたのを思い出しながら、私は時間の計算を懸命にした。

「ちょっと……。リン、この電話、いつかけてきたのよ」

今までに流した悲しい涙とは違う例え様の無い涙に私は襲われた。用事がある時にしか電話をかけてこないリンが、私の母が来た時のことを回想して感想を残している。

運動をした直後に、果たしてそれを伝える為だけに、わざわざ公衆電話からかけるだろうか。留守録の声は元気な声だから、倒れる前であることは確かだ。
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