風になったアナタへ
孤児院では何か新しいものを個人的に買い与えられることが無かったせいで、一度着せられた水着を脱ぐ事は、初めて与えられたものを直ぐに取り上げられるような気がしたのでしょうね。

脱がせようとする度にリンが大騒ぎするものだから、結局、大きすぎる水着と小さすぎる水着とピッタリの水着の三着を全部買いました。

しかも、三枚の水着をリンは重ね着して、そのまま家に帰ってきたんですよ」

パトリシアは、まるで絵本でも読んでいるかのように、この話を参列者に話してくれた。教会は参列者達の穏やかな笑い声に包まれた。

その後、牧師さんが韓国の詩人によって書かれた『蝶』を題材にした詩を朗読した。その時、どこからともなく一匹の黒アゲハ蝶が、教会の中に現れ、参列者の頭上をヒラヒラと旋回するように舞った。

「リンだ。リンが来た」

誰もがそう思ったに違いない。
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