雪花
帰り道
 外に出ると、背筋がピンと伸びた。寒い。空気が澄んでいる。

 冬がやってくる。

「雪華って、綺麗な名前やな」

「え?」

 学校からの帰り道。偶然にも相馬の家は、うちの近くのマンションなんだそうだ。

 誰かと一緒に帰るなんて久しぶりだ。

「せつか、やったよな」

「…よく知ってるね」

「当たり前やろ、クラスメートやねんから」

 …でもきっと、私の名前知ってる人はいないだろう。


 相馬は、よくしゃべって、よく笑う。
 いつも輪の中心にいる理由がわかる。


「雪花って、知っとる?」

「ゆきばな?」

「花びらが散るみたいに降る雪の事や。俺好きなんや」

 相馬は嬉しそうに言った。

「へぇ、子どもみたい」

 一瞬、相馬の表情が固まった。
 あ、まずい。またやった?

「やっぱり?よく言われんねん」

 あれ?気のせいだったのかな。

「それに…、雪華は大人っぽいからな」

「…え?」

 雪華って…

「イヤやった?」

「…やじゃない、けど」

 しゃべる度に、息が白くなる。空気が冷たい。なのに、なぜか寒くなかった。

「せっかく、綺麗な名前やねんから」

 相馬が笑う。初めて見た優しい笑顔。







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