サンキューマイデイリー
保健医は深く深く溜息をつくと、きちんとセットされた頭をくしゃくしゃにして椅子に腰かけた。なんだか何もかもあほらしかった。

(…やっぱり、向いてないか)


グラウンドにはたくさんの桜が植わっていて、窓があいているので桜の香がこの部屋にも流れ込んできている。うすく桃色で、でも近づくとほとんど白にしか見えない桜が立てるさわさわという風の音は、なぜかとても透明な気がした。


何もかも、ばかばかしい。
自分を先生と呼ぶ全員が。
それでもここにいる自分が。


「せんせーい」
「、なんだ」
「おろ、先生珍しい、髪の毛若い!」

保健室に入ってきたのはバレー部の部長坂井海だった。この学校にいればまぁほとんどの人間が知っている顔で、はきはきして明るい印象の生徒だった。運動部に入っているため保健室の利用頻度もまぁ高い。だから保健医も名前くらいは覚えていた。

「へぇーこりゃあ女の子にもてるはずですね、先生」
「おいおい、冗談はいいから要件を言いなさい要件を。」

からかうような口調で絡んできた坂井海を少しいやな目で見返して、保健医は言った。坂井はそんな様子をおかしそうにくすくす笑って“そうでした”といった。

「林さんは?」
「林?さっき帰ったぞ、入れ違ったんじゃないか?」
「えーついてない!困ったなぁ」

林に用事があったらしい坂井は何秒か腕を組んで難しい顔をしていたけれど、まぁいっか、というように小さくため息をつくと“またね先生”と言って保健室を出て行った。

ぱたぱたと廊下を駆ける軽やかな音がした。
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