サンキューマイデイリー
昼休み終了10分前を告げるチャイムが学校中に響いた。
悠介は未だパックの中に残っているパイナップルジュースをすすりながら、次の授業の準備をしなくては、と思ってはいたが体はまだ動いていなかった。と、教室に違うクラスの人間が入ってくる。あぁ知り合いだ、と思った悠介は左手をひょこりとあげた。まだ体は動かない。

「や、」
「おう、相変わらず生きてるんだか死んでるんだかわかんねぇ顔してんなぁ、悠介は」

悠介はその人物のあまりにも相変わらずな様子に顔をしかめ、精一杯いやそうな顔をして口を開いた。

「恭平も相変わらずで」
「うわ、おまえパイナップルジュースとかマイナーなもん飲んでんな」
「なんで?おいしいじゃんパイナップルジュース。」

恭平はパイナップルとかキウイとか、ああいう口の中がいがいがするというかなんというか、とにかくそういう果物が苦手だった。だからパイナップルジュースを平気そうに飲んでいる悠介がちょっとだけ不気味だった。

大川恭平は悠介と腐れ縁だ。その縁は遡ること10年以上。もう幼稚園入学よりもかなり前にさかのぼる。もともと親同士が仲がいいのも手伝って、その縁は今日まで続いている。とはいっても“俺たち、親友だよな!”とかいうなんとも言えない胡散臭くなんだか照れくさい関係はどちらも御免こうむっているので、割とドライな関係が続いている。

「で、なにしにきたのさ」
「あ、そうだ。現代文の教科書借りに来たんだった。貸して」
「あ、そうなの。いいよ」

そこでようやく体を椅子から立ちあげた悠介は小さく伸びをひとつしてから廊下へ出て行った。現代文の教科書は今日もう使われないので先ほどロッカーにしまったのだった。
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