サンキューマイデイリー
桜の季節(懐古)
少しだけ伸びてきた前髪をいじりながら、坂井海は3年の廊下、つまりは3階の廊下をひとり歩いていた。ざわめく廊下は同じ制服を着た、でも違う着こなしをした生徒たちであふれかえっていて、それをかき分けるように歩いた。みんなと同じで短くしたスカートがひらひらと揺れている。
坂井海は前方に探していた人物を見つけて走りだす。途中教室から顔を出した先生にぶつかりそうになって注意されたけれど、舌を出して謝るだけで止まらなかった。


「まーつや!」
「、なんだ坂井か」


自分より少し高い視線がそこにあった。松谷悠介と坂井海は今年も同じクラスだ。


「あのさぁ松谷、」


くだらない話をしながら廊下を歩く。こんな時間が坂井海は一番好きだった。
松谷悠介は中学校の時からの知り合いで、同じクラスになるのはこれで3回目。人付き合いが下手で話下手な悠介と仲がいいことは、坂井海にとって小さな自慢でもあった。


松谷悠介は学年で目立つ存在ではない。自分から目立とうとすることなんて皆無だし、見た目もさほどぱっと目を引くタイプではない。しかし、同じクラスにいるとなかなか女子の目にとまったりもする。センスのよさがにじみ出ているようだ。
松谷本人は完全に無自覚だが、たまにいいよね、といわれているのを坂井海は耳にしている。


「くだらな。」
「うわ、ひどい」
「なんで坂井はいつもそう噂話なっかり…」
「だってわくわくするじゃん!噂話楽しいじゃん!」
「……俺には理解できません」
「えー」
「授業始まるから早く戻ろう」
「うん」


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