サンキューマイデイリー
あぁ、この人が前の席の人か、と悠介は思った。小柄で髪の長いその後ろ姿をしばらく見つめていたけれど、あんまり見つめているのかもどうなのか、と自分に問うてみてから目を離した。見れば板書がさっきよりずいぶんと進んでいたので、とりあえずそれを写した。先ほどまでとはずいぶん違う視界がそこにはあった。


すると、どこからともなく小さな紙きれが回ってきた。悠介にそんなことをする人はこの教室に坂井海しかいないから、悠介は内心溜息をついてあきれながら、その紙を回してきてくれた女子に小さく礼をいってまた前を向いた。
折りたたまれた紙を開くときれいな字で1行だけ、手紙が書かれていた。



林さんだ!有名だよね!


有名、といわれてもピンとこない悠介は首を捻ると、その手紙に返信しようかどうか迷った。別に休み時間に話せばいいだろうに、と思いはするのだけれど、これに返信しないと坂井海はわりとうるさく文句を言うのだった。
でも今日はとてもいい天気で、桜の花が揺れる音が聞こえるし、なんだかのんびりしていたかったから、悠介は返信するのをやめた。
 

そして机に突っ伏して、寝る体制に入った。意識を手放す寸前、前の席のひとが振り向いたような気がしたけれど、すぐに眠ってしまった。
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