サンキューマイデイリー
林律子は保健室にいた。保健室には保健医と林のふたり。静かな部屋に、保健医がパソコンに文字を打ち込む音と、林が本のページをめくる音だけが響いていた。
保健医は打ち込んでいた手を止めて風に揺れているカーテンを見た。林律子という生徒はここに入り浸ってしまっている。しかし別段いじめられているとかいうことはないようだ。いつも体調が悪いといってやってきては、ベッドに寝そべって本ばかり読んでいる。
普通なら追い返すところだが、そうもいかないから保健医は頭を悩ませていた。林律子は体調が悪いと嘘をついているのではない。本当にいつも体調が悪いのだ。だから追い返せないし邪険にも扱えない。保健医はほとほと困っていた。
この保健医は産休を取っている保健医の代理だった。産休中の保健医は産後に体調を崩したりでなかなか復帰できず、それに伴って彼の勤務期間は延びていた。
まだ若く、見た目も悪くないこの保健医は女子高生に人気がある。いつもちやほやされて先生先生といわれているのはそんなに悪い気はしないが、なんだか若い女の子をだましているようでなんだか居心地が悪かった。自分は“先生”なんて呼ばれて慕われるべき人間ではない。それを知らない彼女たちが、好意を向けてくれるのがなんとも罪悪感を生み出していくのだった。
「先生、何難しい顔してるの?」
「、なんだ、具合悪いなら寝てろ」
「ちょっとよくなったかも」
林はいつの間にかベッドをおりてすぐ近くまで来ていた。
華奢で小さな体躯と、どちらかといえばきれいな顔立ちをした林律子は、保健医のいるデスクの隣にある椅子に腰かけると、足をぶらぶらさせて保健医を見ている。
「先生いつまでここにいられるの?」
「さぁな、いつまでだろうな」
「私がいなくなるまではいてね」
「いつまで代理やってればいいんだよ、俺は」
「大丈夫」
林律子は、はかなさを体現したような雰囲気を纏った生徒だった。
「すぐにいなくなるよ」
「ばーか、くだらないこと言ってないで寝てろ」
保健医にそう言われると、林律子は少しだけおかしそうに笑ってベッドに戻って行った。その背中は折れそうなほど細く、消えそうに揺れていた。
保健医は打ち込んでいた手を止めて風に揺れているカーテンを見た。林律子という生徒はここに入り浸ってしまっている。しかし別段いじめられているとかいうことはないようだ。いつも体調が悪いといってやってきては、ベッドに寝そべって本ばかり読んでいる。
普通なら追い返すところだが、そうもいかないから保健医は頭を悩ませていた。林律子は体調が悪いと嘘をついているのではない。本当にいつも体調が悪いのだ。だから追い返せないし邪険にも扱えない。保健医はほとほと困っていた。
この保健医は産休を取っている保健医の代理だった。産休中の保健医は産後に体調を崩したりでなかなか復帰できず、それに伴って彼の勤務期間は延びていた。
まだ若く、見た目も悪くないこの保健医は女子高生に人気がある。いつもちやほやされて先生先生といわれているのはそんなに悪い気はしないが、なんだか若い女の子をだましているようでなんだか居心地が悪かった。自分は“先生”なんて呼ばれて慕われるべき人間ではない。それを知らない彼女たちが、好意を向けてくれるのがなんとも罪悪感を生み出していくのだった。
「先生、何難しい顔してるの?」
「、なんだ、具合悪いなら寝てろ」
「ちょっとよくなったかも」
林はいつの間にかベッドをおりてすぐ近くまで来ていた。
華奢で小さな体躯と、どちらかといえばきれいな顔立ちをした林律子は、保健医のいるデスクの隣にある椅子に腰かけると、足をぶらぶらさせて保健医を見ている。
「先生いつまでここにいられるの?」
「さぁな、いつまでだろうな」
「私がいなくなるまではいてね」
「いつまで代理やってればいいんだよ、俺は」
「大丈夫」
林律子は、はかなさを体現したような雰囲気を纏った生徒だった。
「すぐにいなくなるよ」
「ばーか、くだらないこと言ってないで寝てろ」
保健医にそう言われると、林律子は少しだけおかしそうに笑ってベッドに戻って行った。その背中は折れそうなほど細く、消えそうに揺れていた。