あなたが一番欲しかった言葉
現在 2007年6月
「ヨシ君、『カシトイ』って知ってる?」
頬から、額から、鼻の頭から、汗をダラダラ流した巨漢の祐介に訊ねられた。
スポーツクラブのサウナ室。
祐介も僕も、黒い水着だけを身にまとった状態で、何かの罰ゲームに耐えるかのように、ひのきの長椅子に腰掛けて汗を流していた。
前置きもなく突然『カシトイ』の名前が出てきて、僕はどきりとする。
内心の焦りを悟られぬよう、さりげなく答えた。
「カシトイ?ああ『カシミヤ・トイズ』だっけか、今売れてるみたいだな」
「さすがヨシ君、やっぱ知ってたか。そうなんだ、曲がいいんだ。
ヴォーカルの女の子が詞も曲も書いてるらしいんだけど、どれもラブソングで切ないんだよね。
死んでしまった恋人のことを曲にしてる、なんて噂があるけど」
眩暈がした。
それが暑さのせいばかりではないことは、僕自身よく分かっていた。
頬から、額から、鼻の頭から、汗をダラダラ流した巨漢の祐介に訊ねられた。
スポーツクラブのサウナ室。
祐介も僕も、黒い水着だけを身にまとった状態で、何かの罰ゲームに耐えるかのように、ひのきの長椅子に腰掛けて汗を流していた。
前置きもなく突然『カシトイ』の名前が出てきて、僕はどきりとする。
内心の焦りを悟られぬよう、さりげなく答えた。
「カシトイ?ああ『カシミヤ・トイズ』だっけか、今売れてるみたいだな」
「さすがヨシ君、やっぱ知ってたか。そうなんだ、曲がいいんだ。
ヴォーカルの女の子が詞も曲も書いてるらしいんだけど、どれもラブソングで切ないんだよね。
死んでしまった恋人のことを曲にしてる、なんて噂があるけど」
眩暈がした。
それが暑さのせいばかりではないことは、僕自身よく分かっていた。