あなたが一番欲しかった言葉
入店した当初は、そこまでこだわらなきゃいけないもんかなと、半ば冷めた目で店長を見ていたものだが、数ヶ月が経ち、結城さんのようにウィスキーをロックで飲むようなお客が、みな一様にこの丸い氷を絶賛するので、今ではそれを宣伝文句として利用させてもらっていた。

ロックグラスに、ひとつを入れてみる。
氷は小さすぎず、大きすぎず、すっぽりとグラスに収まった。

芸術なんだな、この丸い氷。
分かる人がここにもいたのかと感心する。

「この氷がいいんだよ。知ってるかい?イサム君。
冷蔵庫で作ったような、普通の四角い氷を使っている店だってあるんだよ。
この店が繁盛してるのは、こうした細かいこだわりが、徐々に口コミで広まったんだろうと俺は思うよ」
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