あなたが一番欲しかった言葉
イサムの「マティーニ一気飲み事件」以来、不思議なことに、それまで閑古鳥が鳴いていた店が、息を吹き返したかのように、オープン時の盛況を取り戻している。

事件を知った店長、俺やヨシキはもとより、バイト仲間全員が、仕事という自覚を持って生き生きと働き出したのは、紛れもない事実だった。

そんな姿勢が、お客にも伝わり始めたのかもしれない。


今夜は口数が多い結城さんにつられ、気軽な気持ちで俺からも話しかけた。

「結城さん、いつも来てた女性と、最近は一緒じゃないんですね」

「ああ、彼女か・・・」

結城さんは、あごに手を乗せ、目を瞑り、そう言ったきり黙り込んでしまった。

聞いちゃいけないことだったんだ。

「いや、すみません、俺、余計なことを・・・」

「別れたんだ」

「えっ?」

俺は、カクテルをマドラーで回す手を思わず止めた。

「彼女とは終わったんだよ」

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