あなたが一番欲しかった言葉
何十分結城さんと話していただろう。
いつの間にかカウンターのカップルはいなくなっていた。

時折ヨシキが、フードを作りながらちらちらと視線を投げかけた。
あいつにも聞こえているらしかった。

「ほう、ずいぶんむきになるんだね。
ははあ、イサム君の好きな人ってのは、この店で働いている子かな?」

スツール椅子の背もたれに寄りかかりながら、結城さんはぐるりと店内を見回す。

「ち、違いますよ。いませんって」

ほっと胸を撫で下ろした。

風邪気味の子供の容態が悪化したとかで、エミさんは30分ほど前に店を早退していたのだ。
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