あなたが一番欲しかった言葉
エアコンは止まったままだ。

みんなして、さっき手渡された「接客マニュアル」の小冊子を団扇代わりにして、ぱたぱたと扇いでいる。

「電気工事がまだ済んでないんじゃないのかな。自動ドアも、ほら、全開になったままだし」

暑いのはお前だけじゃないってことが言いたくて、隣の男に話しかけた。

「マジ?そんな状態でこの店オープンに間に合うのかよ?」

正面から男と目が合った。

肩に届きそうな長い黒髪と、Tシャツから伸びた日焼けした腕。
屈託なく笑う口元からは、白い歯がのぞく。

かっこいいなー、こいつ。

それがイサムの第一印象だった。
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