あなたが一番欲しかった言葉
「はい、お土産。ここのモンブラン、とっても美味しいのよ」

真梨子が持参してきたケーキを渡すと、「それじゃあ」と言いながらイサムは立ち上がり、器用に紅茶を入れてきてくれた。




「俺、あの後、昼のコンビニも辞めて、来る日も来る日もずっと曲を作ってたんだ」

モンブランの栗を口に放り込んだイサムが話す。

「え、あれから全然働いてないのか?じゃ家賃とか、生活費はどうしてるんだよ」

「少し蓄えがあったしな。でももう、それも底もついてきたことだし、あの車も近々売ろうと思うんだ。駐車場代だって、この辺安いって言っても月に7000円だぜ。馬鹿にならないよ。
それにあの車は・・・・」

言いよどむ、その続きを待った。

「あの車は、エミさんとの思い出が詰まりすぎている」

「そうか・・・」

僕も真梨子も言葉を失った。
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