あなたが一番欲しかった言葉
「俺の場合はまず、鼻歌から入るんだけど、それをギターで音を探して、弾いてみて、その繰り返しでに1つの曲になっていくんだ。
うん、そうだ。たしかに快感だな」


曲作りの過程について盛り上がるイサムと真梨子の会話に入っていくことができず、僕はただ聞き役に回っていた。

なんとなく面白くなかったが、ずっと沈みがちだったイサムの明るい顔を見れるのは、僕にとっても嬉しいことだった。


「MD持ってきてるのか。
なんだよ、出し惜しみしないで聞かせてくれよ」

真梨子から受け取ったMDをコンポに挿入した。


透き通るような歌声が流れてくる。


音楽の分からぬ僕でも、真梨子の声は、そんじょそこらの女性がカラオケで唄うそれとは、まったくの別物であることが本能的に分かる。
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