あなたが一番欲しかった言葉
風・・・そう、真梨子の歌声は、そよ風をイメージさせる。

全身を通り過ぎてゆく柔らかな風のようだ。


初めて耳にしたイサムは、じっと腕組みをし、目を閉じたままで最後まで聞き入っていた。


曲が終わる。

残りの冷めた紅茶を一息に飲み干して、イサムは大きくため息をついた。


「これを自分で作った?
ふー・・・すごいんだな、真梨子って。
ピアノだけのシンプルな曲なのに、こんなにクオリティが高いんだから、しっかりとアレンジしたら、もっともっと素晴らしいものになると思う。
率直な意見、レコード会社に送った方がいい。
まいったな、俺の曲がかすんでしまうくらいだな」

「そう言ってもらえるのはとても嬉しいけど・・・」

真梨子の顔はどこか浮かない。
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