あなたが一番欲しかった言葉
4時間におよぶ手術の甲斐なく、イサムは明け方に息を引き取った。


死因は、フロントガラスに頭部を打撃したことによる脳挫傷。


あとで警察の人が話してくれた。

「シートベルトをしていれば死亡事故にはいたらなかったでしょう。
即死でもおかしくなかった状況です。それでも数時間生きながらえたことは、極めて強い生命力の持ち主だったんでしょう」




霊安室に通され、ベッドに横たわるイサムと対面をした。

顔の右半分を包帯で覆われており、見えているもう半分の顔はひどく腫上がっており、その顔を見たら涙が溢れ、我を忘れて叫んでいた。


「イサム・・・なんでだよ・・・嘘だろう」


初めて出会った時の真夏の横顔が浮かぶ。

明るくて、男気があり、自由奔放なイサム。

年下からも、年上からも、男女を問わず誰からも好かれたイサム。

スライド写真のように、様々な横顔が、脳裏にフラッシュバックしていく。


「まだ21じゃねーか・・・早すぎるよ・・・おかしいじゃんか」


足に力が入らず、その場で崩れ落ちた。


「嘘だろう・・・死んだなんて・・・ばかやろう!」


溢れる涙が途切れることはなく、冷たい床にしゃがみこんだまま動くこともできずに、いつまでも泣き続けていた。
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