あなたが一番欲しかった言葉
イサムから家族の話をあまり聞いたことがなかった。

両親は離婚していて、タクシーの運転手をしている父親とは以前暮らしていたと言っていた。
母親のこともお兄さんのことも、イサムの口から出たことがない。


奥二重の目元、細い顎、兄弟と言われればたしかに似ている。どこかイサムの面影があった。

「この度は本当にご愁傷様でした。心からお悔やみ申し上げます」

立ち上がり深く頭を下げると、彼は口元を手で隠すようにして嗚咽を漏らした。
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