あなたが一番欲しかった言葉
「学費は何とか仕送ることができたけど、あとはイサム、自分でアルバイトをして生計を立てていたんです。
父の収入が安定しなくて、仕送りが滞ることがあった。だけどあいつ、文句も言わず、自分で働いたバイト代でやりくりをしていた」

お兄さんは言葉を止め、静かに眠るイサムの亡骸を、目を細めて見ている。

僕は口を挟むのことをためらわれ、膝の上に手を置き、じっと聞いていた。


「今の16、17の子にそんなことができますか?そんな子、今どきいませんよ。
僕はその時思ったんです。
イサムは大丈夫、イサムは一人でも生きていける。
イサムは僕とは正反対の人間なんだって」

「そんなことないんじゃないですか。お兄さんだって、今まで立派に生きてきたんじゃないですか」

悲観的になっているお兄さんを励ましたかった。

「いえ、僕はだめな男だ。
誰かがそばにいていないと、寂しくて寂しくて・・・。
孤独感が人一倍強いのは、母親に捨てられたという過去があるからかもしれない。
幼い時に負った傷というのは、一生消えないものなんですね」

耳にかかる髪をかき上げ、真っ直ぐに僕の目を見つめた。

泣き濡れた瞳。優しい目をしている。
< 182 / 230 >

この作品をシェア

pagetop