あなたが一番欲しかった言葉
「あいつは、僕のために出て行ったんでしょう。
百十の王ライオンが、崖から子を突き落とすように、あいつもきっと突き放すことで、僕を救おうとしたのかもしれません」


お兄さんは立ち上がると、イサムの顔をじっと見つめた。


「ありがとうな・・・ありがとうよ。
お前は僕を救ってくれたんだな。
お前はきっと、死のうとしていた僕の、身代わりになってくれたんだな」


腫れ上がったイサムの瞼に、お兄さんの涙がぽつんと落ちて、イサムが泣いているように見えた。


泣き続けるお兄さんをそのまま残して、僕は霊安室を後にした。
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