あなたが一番欲しかった言葉
訪れる人、去っていく人。
キャンペーン最終日なので、客の往来は激しかったが、エミさんと真梨子は、いつまでもカウンター席から動く気配がなかった。

「エミさん、いったい何本飲んだよ。間違いなく新記録だな」

食器洗いの手を止めずに、イサムが言った。

ミラー、ギネス、バディーズにコロナ、エミさんと真梨子の2人で、悠に20本は飲んだだろうか。

テーブルには、飲み干した缶が所狭しと積み上げられ、片付けようとすると、呂律の回らぬ口調でエミさんに叱られた。

「いいんだよぉ、ここに置いといて。これはあたしたちの勲章なんだからさぁ。ね~、ま~りこ~」

深夜のドキュメント番組で見た、未開のジャングル奥地に住む裸族を思い出した。

部族争いが激しく、自分たちの土地を守るために命をかけて戦う。
見事勝利を治めた時には、相手の耳を削ぎ落とすのだ。
たくさんの「耳」をネックレスのようにして、首から下げる酋長。
耳は酋長の勲章。

空き缶はエミさんの勲章。

ぷっと一人で吹き出した。
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