あなたが一番欲しかった言葉
ラストオーダーはとっくに終わり、店には真梨子とエミさん以外に客はいなくなっていた。

今夜も店長は系列店に行っているため、スタッフは僕とイサムだけであり、だからこそこの時間まで自由に店を開けさせてもらっていた。

「ちょっとトイレ」
そう言うや否や、エミさんは激しい音を立ててひっくり返った。
足の長いスツール椅子から転げ落ちたのだ。

慌ててイサムと一緒に駆け寄った。

「いったーい」

「大丈夫かよ、エミさん、どこ痛いの、腕?どうこれ、痛い?だいたい飲みすぎなんだよ」

イサムはエミさんの腕を持ち上げながら、痛がっている肘を中心に、骨折していないかどうかを確かめている。

どうしてこの男は、こんなにも自然に女性を介抱できるのだろう。

慣れた手付きでエミさんの腕をさする姿に、小さく嫉妬した。
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