あなたが一番欲しかった言葉
「イサム、やめようよ。飲めるわけないって。死んじまうよ」

イサムのシャツを引っ張りながら、僕は小声で囁いた。

「おい、お前、聞こえなかったのか。さっさと作れっての」

「ヨシキ、いいから作れよ。俺が飲めば終わるんだ」

イサムはもう決意している。

早くこの時間が過ぎ去ればいい。

そんな願いを込めながら、通常の倍以上の量のドライ・ジンを、僕は大きなグラスに注ぎ始めた。
通常出している小さなカクテルグラスで換算すると、ゆうに5、6杯分はある。

「おい、メガネ!」

「は、はい!」

鋭い眼光でにらまれて、思わず甲高い声で返事をしてしまう。

「マティーニといや、オリーブだろう?入ってないじゃんかよ。
まあ、いい。福島くん特製マティーニだからな。さあ、一気にくいっといってみようか」

カクテルのレシピにやけに詳しい。
やはりこの男は同業者だ。

どうしてこんな嫌がらせをするのか。

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