あなたが一番欲しかった言葉
イサムは、表情を変えずにグラスを持ち上げたかと思うと、何も言わずに黙ってマティーニを飲み始めた。

僕は思わず唾をごくりと飲み込んだ。


タン!


一気に飲み干したグラスを、イサムはカウンターに叩き付けた。

男の連れである長い黒髪の女が、空のグラスを見つめて「ひゅ~」とおどけた声を上げた。
部下の男も「お見事」と言いながら、3回だけ拍手をした。

社長と呼ばれる男は、カウンターに両肘をついたまま、上目遣いで、にやりと不敵な笑みを浮かべた。
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