あなたが一番欲しかった言葉

スーツの胸ポケットから1枚の名刺を出し、男はイサムに差し出す。

覗き込むとそこには、最近テレビでも取り上げられるほど話題になっているバーの名前が記されていた。

男は創作料理を売りにし、ここ数年で一気に店舗数を増やしているチェーン店の若手実業家だった。

「この店が嫌になったら、いつでも連絡してこい。お前のように度胸の座ったやつになら、店舗任せてもいい。
これが今日の勘定。それと、これはおまえが飲み干したマティーニ代だ」

男は2枚の1万円札を、カウンターに放り投げてきた。

そのまま背を向け、ドアに向かう男を、連れの男女は慌てて追いかけて行った。