針
針
長年音沙汰のなかった友人が訪ねてきた。
最近全く誰とも話しておらず、色々と昔のことをただ思い出すだけの毎日だった私にとって、友人の訪問は飛び上がるほど嬉しいものだった。
「やあやあ久し振り」
私は足の踏み場もないほど散らかったアパートの部屋に、満面の笑みを浮かべ友人を招きいれた。
友人は、昔と変わらぬ表情、体格、そして気持ちの良い笑顔を持ち続けていた。
私は友人に紅茶を差し出した。
友人はそれを旨そうに飲み干しながら、おもむろにこう言った。
「久し振り。最近どう?」
「最近? どうもパッとしないなあ」と私は浮かない顔で返す。「お前は? どうなの?」
「俺? おれは最近、すっごく良いもの手に入れてさ。もう、すうっとする毎日だよ」
「へええ? 何なのその良いものって?」
「これだよ」
友人は、ポケットから針を取り出した。私は訝しげにそれを見て、
「何だ? 針?」
「そう、この針すげえんだ」
「普通の針じゃん」
「違うんだな、すげえんだよ、この針」
「説明してくれよ」
「何かこう、もやもやしてる時ってさ。頭がパンパンになって爆発しそうなんだけど爆発しなくて、それでもうぐるんぐるん回って気持ち悪くなる、なんてことない?」
「まあ、良くあるわな」
「そんな時、これで頭をプスっと刺すとだ。パンッて弾けんだよ、頭が。パンッて」
友人は大きく腕を広げて言った。そしてパンッパンッと気持ち良さそうに手を叩く。
私は苦笑した。
「大丈夫か? そんな、頭が弾けるわけないじゃん」
「じゃあやってみせようか?」
言うや否や、友人は針をこめかみに突き刺した。
次の瞬間、ドパンッというような破裂音と共に、友人の頭が弾けた。軽く弾けた。眼球が飛び、唇が飛び、耳が飛び、脳が飛び……一瞬で友人の首の上はなくなり、そして仰向けに倒れた。
最近全く誰とも話しておらず、色々と昔のことをただ思い出すだけの毎日だった私にとって、友人の訪問は飛び上がるほど嬉しいものだった。
「やあやあ久し振り」
私は足の踏み場もないほど散らかったアパートの部屋に、満面の笑みを浮かべ友人を招きいれた。
友人は、昔と変わらぬ表情、体格、そして気持ちの良い笑顔を持ち続けていた。
私は友人に紅茶を差し出した。
友人はそれを旨そうに飲み干しながら、おもむろにこう言った。
「久し振り。最近どう?」
「最近? どうもパッとしないなあ」と私は浮かない顔で返す。「お前は? どうなの?」
「俺? おれは最近、すっごく良いもの手に入れてさ。もう、すうっとする毎日だよ」
「へええ? 何なのその良いものって?」
「これだよ」
友人は、ポケットから針を取り出した。私は訝しげにそれを見て、
「何だ? 針?」
「そう、この針すげえんだ」
「普通の針じゃん」
「違うんだな、すげえんだよ、この針」
「説明してくれよ」
「何かこう、もやもやしてる時ってさ。頭がパンパンになって爆発しそうなんだけど爆発しなくて、それでもうぐるんぐるん回って気持ち悪くなる、なんてことない?」
「まあ、良くあるわな」
「そんな時、これで頭をプスっと刺すとだ。パンッて弾けんだよ、頭が。パンッて」
友人は大きく腕を広げて言った。そしてパンッパンッと気持ち良さそうに手を叩く。
私は苦笑した。
「大丈夫か? そんな、頭が弾けるわけないじゃん」
「じゃあやってみせようか?」
言うや否や、友人は針をこめかみに突き刺した。
次の瞬間、ドパンッというような破裂音と共に、友人の頭が弾けた。軽く弾けた。眼球が飛び、唇が飛び、耳が飛び、脳が飛び……一瞬で友人の首の上はなくなり、そして仰向けに倒れた。