猫と君
火の勢いは増していく一方だった。
俺はずっと見ていることしか出来なかった。
消防車からぞろぞろと人が降り、そして白いホースが伸びてくる。
騒ぎを聞き付けた野次馬たちが
次第に集まってくる。
俺は葵を抱えて見てることしか出来なかった。
にゃあお……
不意に聞こえた声にびっくりして振り向く。
葵の陰から
猫が一匹顔を出していた。
「ボス……?」
にゃあお…
弱々しい声で返事をするボスの体は
真っ黒だった…。
「お前…もしかして…
葵を助けてくれたのか?」
ボスは必死に葵の顔の傷を舐めていた。
おそらく
ボスはいち早く異変に気づいて
寝ている葵を起こして
二人で必死に逃げてきたんだろう…。
「ボス…お前、すげぇな…」
自分は何もできないと
悔しさで涙が溢れてきた。
「…んぅ……」
「葵?」
「…慧?」
「大丈夫か?」
「ぅん……
…っ!?
お父さんは!?お母さんは!?」
ガバッ!!
「あお…ぃ…」
葵は立ち上がるとすぐに
未だ燃え盛る炎へと走っていった。
俺は急いで追いかけて
葵の腕を掴んだ。
「待て!!葵!!
今行っちゃ駄目だ!!」
「慧っ!!離して!!
お父さんとお母さんはまだ家の中にいるの!!」
ガラガラガラ…
バキバキ…
大きな音で俺たちの動きが止まる。
目の前で炎をまとった家が
崩れていく。
「…っ!?
お父さん?
お母さんは?
おと…さん……
おかあ…さんっ…
い…いや…
いやぁーーーー!!!!!!」
泣きじゃくりながら
叫ぶ。
こんな葵は
初めて見た。
俺はただただ
呆然と立ち尽くしていた。