猫と君
煙が消えるころ
葵が口を開いた。
「…ねぇ、慧?」
「…ん?」
「あたしね、なんでだろう…
涙が出ないんだ。
お母さんもお父さんも死んだって言うのに
涙が一粒も出てこない。
なにも感じない。
悲しいのかさえわかんない。
ただ……ただね、
朝起きたら
お母さんが朝ごはん作ってて「おはよう」って言って
お父さんがボスに餌やってて
気がついたら
二人ともあたしの隣に
ひょっこり現れるような気がして…
明日になったら…
明後日になったら…って
実感が沸いてないだけなのかな?
二人はもう死んだんだって
二人にはもう会えないって
思えないんだよね…」
「……ぅ…ん…」
気付いたら
俺は泣いていた。