Perfume 第一章
何度鳴らしても
出てくれない電話

何十通と送っても
返事のないメール



もう

行くしかない



合い鍵を握りしめて
鈴子さんの部屋に向かう


どうしよう

どうすればいいんだろう



部屋に着き鍵を開ける

ガチャ ダン


「…っ」
チェーンがかかってる



「…鈴子さん?」

ドアのすぐ近くに気配がする


「話聞いて?」


鈴子さんの息が少し乱れているのを感じて


泣いていることを悟る


「…ごめんなさい」



鈴子さんの息遣いが嗚咽に変わる

今すぐ

今すぐに
抱きしめたいのに



貴女がかけた
チェーンが邪魔をして

届かないよ




「…鍵。鍵返して」
絞り出す様な悲痛な声が俺の胸を突き刺す

「…嫌だ…嫌だよ、お願い、お願いだよ…見捨てないで」



「出てってよ…もうっ陵の顔なんて…見たくないっ」

「嫌だ…嫌だよっ」

思わず

涙が流れてしまう



「…帰って」

鈴子さんの嗚咽が激しくなる



ドンッ

不意にドアノブを持つ手を緩めたすきに

ドアは激しく閉められて



鍵をかけられてしまった




合い鍵はまだ持っていたけど

開けても

…鈴子さんの心の鍵は開かないって事が俺にはわかってしまった



仕方なく

とぼとぼと帰る道で



目からは涙が流れ続けていて

すれ違う人達に

じろじろ見られていたけど

そんな事はもう
どーでも良かった



鈴子さん以外の人なんて



いてもいなくても




おんなじ
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