走り出せ、コスモス<前編>


「なら大丈夫。

これから沙枝ちゃんは伸びるよ。

悔しいって、その気持ちを忘れないで。」




涙が出そうだった。


先生がくれたのは、私が欲しかった全部の言葉。

頑張ったねって 認めてほしかった


そして

このどうしようもなく大きくなった黒い気持ちを

どうすればいいのか 教えてほしかった



―――先生…


・・・ありがとう…。





いっぱいいっぱいお礼を言うと、

先生は優しく微笑んだ。


帰りますって言ったら 

うんって言って 背筋をのばした。


「さよーなら。

今日は午前中雨降ってたから、

水たまりに気をつけて帰ってね。」


そう言って、次の授業の教室へ向かった。


私はその背中をずっと見ていた。

先生の背中に向かって、心の中でありがとうを言い続けていると


…その声が聞こえたみたい…


先生は振り返って、にこって笑って

教室に入って行った。


先生がいなくなった廊下の先に見える空には、

もう雲がひとつもなくなっていた。






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