RIRIA
「失礼」

威厳のある声とともに、1人の男が入ってきた。
その姿を見て、リアは姿勢を正す。

「おはようございます。エリザベス様」

「おはようございます、おじさま」

エリザベスが微笑む。
深い皺に厳格そうな表情を浮かべたその男は、リアの父親であり、エリザベスも親しみを込めて「おじさま」と呼ぶ人物。
アレックス・D・フィルダーストン。

王家に忠誠を誓う大公爵である。

リアも、ぺこりと頭を垂れる。
アレックスはそれを一瞥すると、エリザベスに向き直った。

「昨夜は夜会で海賊に襲われたとか?」

用件はそれか……。
リアは黙って、成り行きを見つめる。

「ええ……。ですが、私は何も奪われていませんし、怪我の1つもありませんわ。リアが守って下さったもの」

「それはようございました。……しかし、その海賊と昨夜の夜会の主催者には、それ相応の罰が必要ですな」

ピクリとも笑わずに、アレックスは続ける。

「あまり……責めないであげて下さいね……」

仕方がない、とでも言うように、エリザベスは小さく懇願した。
アレックスから目をつけられたのであれば、もうあの家の繁栄は難しいだろう。
海賊たちも、恐らく見つかれば処刑……。

そんな相手からの贈り物を胸元に忍ばせるなんて……まるでスパイになった気分だ。

それでも、父親にこのことを話すわけにはいかない。

自分が女だと、バレることは絶対にあってはならないのだ。
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