The Last Story

憎しみ動く男

人は誰しも心に闇を抱えているものである。しかし、それが溢れてしまう者は滅多にいない。人は悲しみや怒りなど不の念を抱いたとき何らかの方法で発散する。
そうして人は心を保ち、闇に堕ちる者はでないと言われている。しかし、時として闇に堕ちる者がいる。
どうしてそうなったのか?
それは分からない。しかし、その者はもう人間ではなくなる。
"ヴィクタ"人々はそう呼ぶ。
悪の化身とも呼ばれるその闇に堕ちた者は自我を失い、人ではない力をもって破壊の限りを尽くし、そして滅びる。
そう、クルシスと同じく身を滅ぼすまで破壊の限りを尽くす。違うといえばクルシスは魔法の力によってヴィクタは物理的力によって。しかし何も変わらない。
方法の違いなだけ、破壊する人形であることにはまったく変わらないのだ。


かつて僕もヴィクタだった。
どういう流れでそうなったのか。それは忘れてしまった。
ただ覚えているのは深い闇の世界にいたこと。何もない世界。何も聞こえない世界。僕は一人だった。
そこにいるうちに最後に食べた物や、好きな音楽、大事な物を隠していた場所、好きな人の顔、自分の顔...名前、頭の中から一つずつ消えていった。
いつしかどうしてここにいるのかさえ忘れ、最後には考えることすら忘れ、僕の思考は停止してしまった。

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